大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2634号 判決

ところで、控訴人とその戸籍上の父和田長十郎との親子関係不存在確認を求める訴は、和田長十郎が既に死亡していること前認定のとおりであるから、ひつきよう過去の法律関係の確認を求める不適法な訴というべきであり、この場合人事訴訟手続法第二条第三項を類推適用することはできないものと解する。

よつて次に、控訴人が訴外亡増田久一の子であることの認知請求について考える。前認定によれば、控訴人はその母小谷野こよが和田長十郎との婚姻中に懐胎したものであるが、控訴人は、その主張するような事情で小谷野こよが夫和田長十郎と別居して増田久一と同棲後三年位で控訴人が出生したのであるから、小谷野こよが夫たる和田長十郎により懐胎するということはあり得ないことであり、旧民法第八二〇条の嫡出推定の規定は夫婦が同居し妻が夫の子を懐胎し得る状態のもとにおいて子を懐胎した場合のみに適用される規定なのであつて、本件のような場合には同条の推定を受けない、と主張する。旧民法第八二〇条(現民法第七七二条)が、妻が婚姻中に懐胎した子を夫の子と推定するのは、今日の社会の実情からみれば、妻とその夫以外の男との間に性関係の存在することは極めて例外のことに属し、通常は夫婦の同居と妻の貞節とが期待され得るからであり、従つてもし妻が婚姻中に懐胎した子であるに拘らず夫の子でない場合には、反証を挙げて右の推定を覆しうるわけであるが、右嫡出の推定は極めて強い推定であつて、法は別に否認の訴を設けて厳格な要件の下に一定の者に限つてこの推定を覆しうるものとしているのである。右の如く旧民法第八二〇条は通常の夫婦関係にある夫婦を基準として嫡出の推定をしているわけではあるが、右推定は例外的な夫婦関係にある夫婦にも原則として及ぶものというべく、そうでなければ推定規定の意義は殆んど失われる結果となろう。ただ、例外的な夫婦関係にある夫婦のうち、妻が夫によつて懐胎することの不可能なことが客観的に明瞭な事情の存する場合にも右推定が及ぶものとするとの極めて不合理な結果となるので、そのような場合にのみ右推定規定の適用が排除されるのである。従つて、嫡出推定が排除されるためには控訴人主張のように単に夫婦の別居中妻が懐胎したというだけでは足りないのであつて、例えば夫婦の一方の出征、在監、外国滞在など客観的に明瞭な事実の存することが必要である。ところで、本件において控訴人の主張する事実は、未だ疑をさしはさむ余地のある場合であつて、夫婦間の交渉について具体的審査をした上でなければ夫による懐胎不能の事実の存否を確定しえない場合であるから、叙上の嫡出推定が排除される事情に該当しない。

以上の次第で、控訴人は旧民法第八二〇条によつて和田長十郎の嫡出の推定を受ける所謂推定嫡出子であるところ、この嫡出の推定が法定の否認権者による否認の訴によつて覆されることは控訴人の主張、立証しないところであり、弁論の全趣旨によれば右推定の覆されていないことが認められるから、控訴人は法律上現に和田長十郎の嫡出子たる身分を有するものといわねばならず、右の控訴人の身分からすれば、控訴人が増田久一の子であることの認知を求めることは許されないから、右認知請求は失当として棄却を免れない。

(菊池 花渕 山田)

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